2015年11月12日
TPPと対米従属 鈴木宣弘氏講演の要旨
TPP交渉が10月に大筋合意され、閉会中の国会審査でも取り上げられました。日本の食料安全保障に係る大きな問題です。国民連合・大阪では11月1日、「TPPと対米従属」をテーマに総会の記念講演を鈴木宣弘・東京大学教授が行いました。≫全文
鈴木氏は「他の国は、米国を筆頭に国内の反対が強く、簡単に批准などできる状況ではない。闘いはこれからである」と指摘。この時期、大変参考になると思いますので、資料の抜き書きを紹介します。
綾瀬市でも養豚農家や酪農家がいて、大きな影響が考えられます。生産を守って行きたいと思います。
なお、鈴木教授は11月22日(日)午後1時半から、日本教育会館(一ツ橋)で行います広範な国民連合全国総会のシンポジウムに参加されます。どなたでも参加できます。ぜひ、おいでください。
TPPと対米従属 鈴木宣弘氏 国民連合・大阪総会記念講演の要旨
- 難航したTPP(環太平洋連携協定)交渉は2015年10月、ついに「大筋合意」に達したと発表され、日本では「歴史的快挙」のように報道された。しかし、今回の大筋合意は、決裂しなかったと装うための見切り発車の「合意」の側面がある。
- 日本が、合意のためには何でもする「草刈り場」と化して、譲歩を一手に引き受けて、ここまでして大筋合意を装いたかった。
- 投資や人の移動の自由化は日本人の雇用を減らし、賃金を引き下げるであろう。国民を犠牲にして米国の意向に沿おうとする行為をこれ以上容認するわけにはいかない。
- 関係者が目先の条件闘争に安易に陥ると、日本の食料・農業の将来を見失いかねない。
- 党の公約と国会決議はすべて反故にされた。決議と整合するとの根拠が示せない限り、批准の手続きを進めることは許されない。他の国は、米国を筆頭に国内の反対が強く、簡単に批准などできる状況ではない。闘いはこれからである。
「補論」抜き書き
- イコール・フッティング(対等な競争条件)の名目の下に「企業利益の拡大にじゃまなルールや仕組みは徹底的に壊す、または都合の良いように変える」ことを目的として、人々の命、健康、暮らし、環境よりも目先の企業利益を追求するのがTPP、規制「改革」、農政・農協「改悪」の本質である。
- 基本的に制度というものは一部の人に利益が集中しないように公平・公正を保つために作られているから、自分が儲けたい人にはじゃまなのである。そして一部に利益が集中しないように相互扶助で中小業者や生活者の利益・権利を守るのが協同組合だから、「今だけ、金だけ、自分だけ」には最もじゃまな障害物である。
- 某国首相が米国議会演説で、情けなくも「農業・農協、医療という悪しき岩盤規制を国際標準に則って、自分が槍の穂先になってこじ開けた」と誇った。人々の命、健康、暮らしを守る相互扶助のルールや組織を「悪者」に仕立てて潰して、企業利益の暴走を助けるのが一国の指導者の使命なのだろうか。世界標準に則るどころか、協同組合潰しは世界標準に反する恥ずべき行為と国際的に批判されている。
- 少数の者に利益が集中し始めると、その力を利用して政治、官僚、マスコミ、研究者を操り、更なる利益集中に都合の良い制度改変を推進していく「レントシーキング」が起こり、市場がゆがめられて過度の集中が生じる。この行為こそが1%(富の集中する人々に対するスティグリッツ教授の象徴的な呼称)による「自由貿易」や「規制緩和」の主張の核心部分である。それがしたたり落ちてみんなが潤うといった「トリクルダウン」は、起こるわけがない。更なる富の集中のために「99%」から収奪しようとしている張本人が「トリクルダウン」を主張するのは自己矛盾で、意図的なウソ以外の何物でもない。TPPは国際条約を利用して米国企業が儲けやすい仕組みを世界に広げるという壮大なレントシーキングである。
- バターが足りなくなるような酪農家の窮状や2014年秋の米価暴落を放置する姿勢を見ると「地方創生」とか「農業所得倍増」と白々しく言いつつ、日米の大企業を儲けさせるために既存の農家を潰し、相互扶助組織を潰し、地域を本気で潰しにかかっているのが実感される
- 「そんなことをしたら米国が喜ばないじゃないか」と怒った人が事務次官になるように、米国を喜ばせることが私益・省益・国益となった省もある。天下り先である大企業の経営陣の利益を確保することが私益・省益・国益になっている省もある。官邸をコントロールしているのはそれらの人々だ。中には、米国の大学で洗脳されて本当に「すべてなくせばうまくいく」と信じ込んでいる人もいる(自己否定だとは気付かない)。一方、食と農を守るのは国益としてきた省は官邸から排除されつつある、その結果「食や農を犠牲にして米国と大企業の経営陣を喜ばせる」のが日本の針路になってしまった。さらに各省庁の幹部人事を官邸が決めるようになり、N省もG省やK省のように、米国と企業を喜ばせなくては出世できなくなってしまうと、誰も暴走を止められなくなってしまう。
- 巨額の個人的利益を得ている一部の人が政府の中枢に入り込んで「規制緩和」の旗印の下に露骨に、更に貪欲に「今だけ、金だけ、自分だけ」で、多くの国民の生活を犠牲にしつつ利益を追求する行為は目に余るものがある。しかし政治、官僚、マスコミ、研究者も一体化しているから、誰も癒着の真実を伝えない。